言葉を道具に外国理解を

甲南大学(神戸市東灘区)国際言語文化センターの所長に、本年度、中国出身の胡金定(こきんてい)さん(50)が就任した。同大学内で教授会を持つ学部・センターでは初の外国人トップ。近年、国際理解の重要性が言われるが、いまだに不正確でステレオタイプの外国像も根強いのが実情だろう。学生らをいかに深い理解に導くのか、センター運営構想などを聞いた。

甲南大・国際言語文化センター所長 胡金定さん

胡金定教授 胡所長は中国福建省廈門(あもい)の出身。廈門大で日本語を専攻し、1985年に来日、大阪外国語大神戸大で学んだ。甲南大には96年に着任した。

同センターは、言語教育を通した異文化理解の促進などを理念とする。胡所長は「国際的な摩擦は他国に対する無理解に起因する」と指摘。「例えば、中国人は名刺に肩書を数多く記し、必死に自分をPRする。だが日本人は、それをあまり好まない。こういった『常識』の違いを知るためにも、学生には留学を奨励したい」と話す。

甲南大でも中国に関心を持ち、中国語履修を希望する学生が急増しているという。だが、靖国神社参拝問題などで、近年、日中関係はきしみがちだ。胡所長は「両国の新しい関係を模索しなければならない」と述べる。「明治を境に逆転したが、有史以来、中国と日本は常に“上下関係”にあった。今、両国の経済・文化力が接近しつつあり、初めて対等になろうとしている」からだ。

比較文化・文学などを専門とする。最近は中国の日系企業の調査なども行うが、長らく近代の日本文学が中国に与えた影響を研究してきた。中国では、あまり関心を持たれなかった分野だ。
胡所長によると、明治時代、日本に留学した魯迅や郁達夫(いくたっぷ)ら中国の文学者は、日本語を「道具」として、日本を、そして西洋を学び、それを中国に伝えたという。学生に対しても、言語を「道具」として活用することを期待する。「外国語を語学として学ぶだけでは不十分。身に付けた言語で相手の懐に飛び込み、外国を理解してほしい。それが真の国際理解につながるだろう」と話している。
 
神戸新聞・2007年5月16日

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