自著を語る 『郁達夫研究』 Page2/2

紹介したい本 3 -自著を語る- 『郁達夫研究』(東方書店、2003年2月)
国際言語センター教授 胡 金定

郁達夫 郁達夫の代表作である「沈淪」の文体も中国文学従来の文体と違うことに、読みながら気がついた。この文体がどこから来たのかを調べるうちに、経済を専攻していた郁達夫に文学の魅力を再度感じさせた画家であり、詩人、小説家、評論家でもあった佐藤春夫の代表作「田園の憂鬱」から影響のあったことが分かった。佐藤春夫は新聞に「田園の憂鬱」を連載していた時、ちょうど郁達夫は東京に在住していた。友人を介して、佐藤春夫と知り合いになってから、親交を続けた。二人は文学論議などを常にやっていた。そこから、郁達夫は「田園の憂鬱」を手本に、「沈淪」を書いたのであった。この章では両作品の文体の相違点を鮮明にした。

郁達夫日記の量は他の作家と比べても特出である。彼の文学を研究するなら、日記を抜きにしては語れない。本書は郁達夫日記にも光を当てた。特徴として、「作家自身の手によって整理し、形式を整えて、小説の代替物として発表したこと」、「日記という形式に託して、自分のすべてを赤裸々に公表したこと」、個性を表現するなら日記形式が最適だと主張していたので、郁達夫の日記作品には「彼自身の個性を見出すことができること」、「内容が豊富であること」。以上の4つの特徴を突き止めた。
比較文学の手法を活用して、郁達夫の作品にはツルゲーネフ、シュトルム、ルソーなどの外国作家が影を落としている。また、ニーチェとシュティルナーからの影響も明らかにした。
郁達夫は漢詩人でもあった。彼の漢詩を「風景詩」、「抒情詩」、「詠史詩」に分類して論じた。
本書が出版されて以来、中国文学研究や日本文学研究、日中比較文学研究に新風を吹き込んだと評価されているが、詳しくはぜひご一読願いたい。
甲南大学図書館 館報「藤棚」 Vol.21・2005年

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